徹底レビュー:息をのむハイスペック「VAIO Zフリップモデル」は2-in-1の

 VAIOの「VAIO Zフリップモデル」は高価格で優秀なデバイスだ。とびきり最高級のものを求め、それを手に入れるために高額な費用を支払うことを厭わないユーザーを対象としている。場合によっては、不当に高い代金を支払うことになり得る。

【正面からの画像】

 VAIOは、2014年にソニーが投資ファンドに売却したときから、あまり変化していない。今でもVAIOはハイエンドなスペックの高級なデバイスで、それに見合った品質の構造も備えている。ノートPC市場が商品の低価格化を推進している一方、VAIOは超然とした態度を崩す気配がない。同社最新製品のVAIO Zフリップモデルは、非凡なデザインと強力な機能を備えた2-in-1デバイスの決定版として十分な出来栄えだ。

 廉価な代替品があふれる市場で、Microsoftの「Windows 10」を搭載した高額なVAIO Zフリップモデルには、その高値に見合う価値はあるのだろうか。本稿では、それを検証する。

●構造とデザイン

 まず名前について少し説明しておきたい。VAIOは3種類のVAIO Zを展開している。

まず、標準的な薄型軽量ノートPCの「VAIO Zクラムシェルモデル」。同梱されたBluetoothキーボードとペアリングするWindows 10搭載タブレットの「VAIO Z Canvas」。そして、3つ目は本稿でレビューするVAIO Zフリップモデルだ。フリップモデルは、「VAIO Z(フリップ)」「VAIO Z(2-in-1)」「VAIO Z 2-in-1モデル」と呼ばれることもある。それから、VAIO Zをより頑丈にした「VAIO S」というモデルもある。

 ほとんどのWindows搭載の2-in-1デバイスは、Lenovoの「Yoga」シリーズで普及した360度回転のディスプレイヒンジが備わっているか、キーボードが取り外し可能になっている。一方、VAIO Zフリップモデルはディスプレイの中央部分に180度回転するヒンジが取り付けられており、画面を裏返してキーボードに重ねて閉じられるようになっている。

 これは珍しいデザインではなく、Appleの「iPad」がリリースされる前にWindows搭載タブレットの多くが採用していたものだ。ただし、このデザインを採用するには、デバイスの構造がしっかりしていなければならない。これは、このデザインを多くのメーカーが避けている理由でもある。付け外しを可能にするには、パーツ同士がしっかりと組み合わさっていなければならない。だが、VAIOはその点をクリアしている。VAIO Zフリップモデルが時間と手間をかけて設計および製作されたものであるのは間違いない。

 部品についても同じことがいえる。テクスチャが施されたアルミニウム製の画面カバーの手触りは良いが、汚れは目立ちやすい。また、黒のカーボン製の縁と底面は、かなり頑丈だ。

 ディスプレイヒンジの中央には取り外し用のスイッチがあり、ディスプレイを磁石で固定するタブレットモードに切り替えられる。また、両手を使う必要はあるものの、切り替えはスムーズだ。ノートPCモードにもスムーズに戻すことができる。

 タブレットモードでは、画面横の縁の一部がはみ出るようになっているので、しっかりと手で持てる。良く考えられたデザインだ。さらに、ノートPCモードでもディスプレイを裏返せる点がうれしい。

 VAIO ZフリップモデルにはN-trigのスタイラスペンが同梱されているが、ペンを取り付ける場所はない。また、ペンをつなぐヒモも同梱されていない。これは設計上唯一の欠陥でストレスを感じるポイントだ。

 Microsoftの「Surface Pro」など、極限まで薄型化と軽量化を追求して設計された製品でも、キーボード部分の通し穴(Surface Pro 3)やマグネット式の取り付け部(Surface Pro 4)など、ペンを格納する場所は用意されている。VAIO Zフリップモデルは、あまり小さくない。寸法は215.3×324.2×15.0~16.8ミリ(高さ×幅×厚さ、※)で、重量は1.35キロだ。さらに、ディスプレイの上側面には磁石が埋め込まれている。そのため、ペンの置き場所をなくすのは全く不必要な対応であるように思える。

※左右で厚さが違う。

●ディスプレイ

 VAIO Zフリップモデルのディスプレイは13.3インチで、解像度は2560×1440ピクセルだ。この仕様により、映画のような16:9のアスペクト比と約221ppiの画素密度を実現している。Microsoftの「Surface Pro 4」やSamsung Electronicsの「Galaxy TabPro S」のアスペクト比はより正方形に近い3:2で、こちらの方が好まれる。というのも、このアスペクト比の方が、スプレッドシートなどの生産的なタスクの作業でより大きいスペースを確保できるためである。だが、VAIO Zのディスプレイが洗練されているのは紛れもない事実だ。映画に近いアスペクト比で見る映画や動画は息を飲むほど美しい。

 Surface Pro 4のディスプレイはVAIO Zより小さいが、画素密度は高い。また、Galaxy TabPro Sは、Samsung製有機ELディスプレイ「Super AMOLED」パネルを搭載している。ただし、どちらもVAIO Zを圧倒するほどではない。VAIO Zでは、画像は鮮明に表示され、色彩は非常に鮮やかだ。視野角も広く、最大にした画面の明るさも十分だ。ただし、VAIO Zフリップモデルは反射パネルを採用しているため、一部のハイエンドな競合製品と比較してグレアが問題になっている。

 VAIO Zフリップモデルのタッチ判定は正確で、同時に10箇所のタッチまで対応している。VAIOはこのディスプレイが「衝撃耐性強化ガラス製」だとうたっている。だが、TechTargetは、乱暴な扱いへの耐性を調べるためにVAIO Zフリップモデルを落下させるテストをしていない。全体の構造品質から考えれば、VAIO Zのディスプレイパネルは何度か落としても粉々になることはないだろう。

 一方、VAIO Zフリップモデルの底面に備え付けられたスピーカーは、同じクラスの他製品と比べて低水準だ。個人的に使うには十分だが、スピーカーのサイズは小さく、取り付け場所から出力音には限界がある。タブレットモードとノートPCモードのどちらを使用している場合も、スピーカーから出力される音はユーザーに直接届かない。直接スピーカーに耳を当てて聞いてみると、高音は安っぽい感じで、低音はほとんど聞こえないというありさまだ。ただし、これはVAIO Zフリップモデルに限った話ではない。2-in-1デバイス購入の判断基準にスピーカーを入れるぐらいなら、コイントスで判断した方がましだろう。

●ボタンと端子

 VAIO Zフリップモデルは、さまざまな種類の端子とボタンを搭載している。その中には、下記がある。

・フルサイズの給電機能付きUSB 3.0
・フルサイズの標準USB3.0
・フルサイズのHDMI
・フルサイズのSDカードリーダー
・ACアダプター入力端子
・小さな電源ボタン
・タブレットモード専用の音量ボタン
・デュアルオーディオジャック

 また、タブレットモードのため、ディスプレイに物理的なWindowsキーが配置されている。さらに、ACアダプターに充電用のフルサイズUSBがもう1つある。この追加のUSBはTechTargetで好評を博している。ACアダプターがVAIO Zとスマートフォンの両方を充電できることを知ったら、よく旅行をする人も同じように感じるだろう。

 VAIO Zフリップモデルには、HDMIからVGAへの変換アダプターも付属されている。VGAモニターが広く普及していることを考えると、これは非常に便利な機能だ。

 VAIO Zフリップモデルは全体的に手堅い装備になっているが、1つだけ明らかに欠けているものがある。百歩譲ってイーサネットジャックや「Thunderbolt」端子「DisplayPort」入力端子がないことには目をつぶろう。だが、「USB Type-C」入力端子は用意されて然るべきだっただろう。実際、USB Type-C入力端子は同じクラスのデバイス全てに求められる。それから、電源ボタンは小さすぎるため見つけるのが困難で、目で確認しながらでないと押すのも難しい。

●キーボードとトラックパッド

 バックライト付きキーボードには、大きく十分なスペースが確保されたキーが82個ある。キーストロークは、約1ミリと浅い。これはノートPCよりもモバイルやBluetoothキーボードの仕様で、キーの弾力もそれ相応となっている。幸い、VAIO Zフリップモデル本体には入力しやすさが損なわれないだけの弾力がある。また、開いたディスプレイカバーに支えられるデザインによって、美しい曲線の印象が得られる。

 キーボード下の中央には、テクスチャ加工が施された大きな1枚のトラックパッドが配置されている。ただし、このトラックパッドにはVAIOのプレミアム品質が誇るほどの滑らかさはない。タッチ画面、アクティブペン、外付けマウス用の端子があることから、タッチパッドは正確なポインティングの最終手段として使用するのがベストだろう。

●パフォーマンス

 VAIO Zフリップモデルには、Intelの第6世代の「Core i5-6267U」プロセッサ(4MBのキャッシュ、最大3.30GHz)か「Core i7-6567U」プロセッサ(4MBのキャッシュ、最大3.60GHz)のいずれかが搭載されている。また、RAMはLPDDR3で1866MHzの8GBか16GBのいずれかだ。ストレージに関しては、PCIe SSDの256GBか512GBのいずれかを選べる。それから、どの構成にもIntelの「Iris グラフィックス 550」が搭載されている。Core i5の構成ではMicrosoftの64bit版「Windows 10 Home」、それ以外に64bit版「Windows 10 Pro」がインストールされている。

 Windows 10を搭載した同じクラスの他の2-in-1デバイスに比べると、VAIO Zフリップモデルは選択肢に優れている。VAIO Zフリップモデルが他のデバイスと一線を画している理由にIris グラフィックスがある。この基本構成で、多くのリソースを消費するビデオ編集プログラムやAdobeのアプリスイート「Creative Cloud」のヘビーユーザーのあらゆる作業に対応できるだろう。VAIO Zフリップモデルならゲームもお手の物だ。Intelの「インテル HD グラフィックス」を搭載したデバイスは、2012年以降にリリースされた超有名タイトルをプレイできる。だが、VAIO Zフリップモデルなら、2014年や2015年以降の多くのタイトルを推奨設定でプレイできる。

 今回レビューしたVAIO Zフリップモデルには256GBのSSDが同梱されている。システムとプリインストールされたアプリが占めるのは24.5GB(アプリのみでは2GB弱)だった。標準のWindowsアプリやサービス、多少のVAIOユーティリティー以外にプリインストールアプリはゼロに近い。さらにありがたいことに、悩みの種になるウイルス対策ソフトも入っていない。

 レビューしたVAIO Zフリップモデルの本体の仕様は以下の通りだ。

・13.3インチのIPSタッチスクリーン(N-trigのスタイラスペン対応、解像度2560×1440ピクセル)
・64bit版Windows 10 Pro
・Intelの第6世代Core i7 6567Uプロセッサ(4MBのキャッシュ、最大3.60GHz)
・IntelのIris グラフィックス 550
・8GBのLPDDR3 1866MHz RAM(拡張不可)
・256GBまたは512GBのSSD
・802.11 a/b/g/n/acデュアルバンドWi-Fi
・Bluetooth 4.1
・800万画素の背面カメラ、100万画素の前面カメラ
・寸法:215.3×324.2×15.0~16.8ミリ(高さ×幅×厚さ)
・重量:1.35キロ
・N-trigのスタイラスペン、HDMIからVGAディスプレイへの変換アダプター、USB充電端子付きACアダプター同梱

●発熱とノイズ

 VAIO Zフリップモデルは、サイズの割りバッテリーの持続時間は長い。また、ファンによりしっかりと冷却されており、底面が多少温かくなるくらいだ。ただし、ファンの音は無視できないほど大きい。幸いなことに、ファン効率が良く一度に数秒以上動作することはほぼない。なお、「VAIO Zは高い密度でパーツを配置しており、高度な冷却方法によって最適な効率を実現している」とVAIOは主張している。

●スタイラスペン

 VAIO ZフリップモデルはTechTargetがテストした中で、ペンと2-in-1デバイスの優れた組み合わせの1つだ。N-trigのスタイラスペンは、ディスプレイを非常に滑らかに動作し、遅延もほとんど見られない。ペンの精度は高く、ゆっくり直線を引くときれいに書ける。物証については、下記のテスト画面を参照されたい。2015年末に同じテストをSurface Pro 4で行ったが、線はぶれていた。

 VAIO Zフリップモデルはディスプレイの約8~9ミリ上のホバー操作を認識し、1024段階の筆圧感知に対応している。ペンは単6電池で動作するため比較的太めだが、オプションのラバーグリップの有無に関わらず持ちやすい。N-trigのスタイラスペンには2つのボタンがある。一方のボタンを2度押すとMicrosoftの「OneNotes」が起動し、もう一方のボタンを2度押すとVAIOの「VAIO Clipping Tool」が起動する。だが、ボタンは少し押しやすい位置にあるため、テスト中に間違って押してしまうことが何度かあった。

●バッテリー

 VAIO Zフリップモデルは58Whのリチウムポリマーバッテリーが搭載しており、バッテリーの持続時間は申し分ない。Futuremarkの「PowerMark」ベンチマークでディスプレイ設定を強めの70%にすると、4時間23分という結果になった。このテストの負荷はかなり高い。そのため、Windows 10の強力な電力管理ツールを活用すれば、バッテリー持続時間は確実に長くなるだろう。

●価格

 VAIO Zフリップモデルの価格は、Iris グラフィックス搭載のCore i5、8GBのRAM、256GBのSSDという構成で1799ドル(21万9800円、以下全て税別)からとなっている。決して安くないが、この構成と肩を並べる製品は市場にほとんどない。比較のため、Core i7プロセッサ、16GBのRAM、512GBのSSDを搭載した、2399ドル(30万9800円)のVAIO Zフリップモデルも確認したい。

 Core i7、Iris グラフィックス、16GBのRAM、512GBのSSDを搭載しているHewlett Packard Enterpriseの「HP Spectre X360 15t」を比較対象として見てみよう。ハイエンドデバイスに対して適切な表現かどうかは定かでないが、HP Spectre X360 15tはお手ごろな価格になっている。Spectre X360は、Yogaシリーズと同様に360度回転する15.6インチのディスプレイを備えている。また、解像度は1080×1920ピクセルか2160×3840ピクセルだ。本稿執筆時点では、Windows 10 Pro搭載モデルは1760ドル、Windows 10 Home搭載モデルは1690ドルとなっている。どちらも高解像度のパネルはあるが、スタイラスペンは付属していない。

 これらに近いスペックのSurface Pro 4の価格は2099ドル(17万9800円)だ。Microsoftの「Surfaceタイプカバー」を加えると、総額に追加で130ドル(1万6400円)または160ドル(約2万480円)支払わなければならない。Surface Pro 4は小型かつ薄型の設計で、ディスプレイは12.3インチとなっている。同等のスペックを備えた13.5インチの「Surface Book」の価格は2669ドル(20万4800円)だが、搭載されているのはNvidia GeForceグラフィックスだ。これは、現在の2-in-1デバイス市場で最高峰といえるだろう。価格は同程度のため、どのデザインが好みかを考えて選ぶことになる。

●結論

 VAIO Zフリップモデルでは、ほとんどの要素が上質だ。構造は堅牢で、ディスプレイは素晴らしく、バッテリーの持続時間も長い。さらに、スタイラスペンを使うのも楽しく、裏返せるディスプレイのデザインも秀逸だ。キーボード部分が取り外し可能な他の製品やYogaシリーズといった類似品であふれる市場で異彩を放つ素晴らしい仕上がりだ。これら全ての目玉機能は、その欠点を補って余りあるものといえる。

 ただし、VAIO Zフリップモデルの価格の高さを考えると、その欠点は受け入れづらくなる。これほど高価な製品であれば、より長いキーストロークと上質なタッチパッドを備えていても良いだろう。また、N-trigのスタイラスペンを取り付ける場所もあって然るべきである。公正を期すために補足しておくが、競合デバイスにもバッテリー持続時間やキーボードの使い心地など、価格が高いために強調される弱点はある。

 特に市場では約半額でCore i搭載デバイスが販売されていることから、VAIO Zフリップモデルは、ほとんどのユーザーにとってただ高すぎるだけといえる。とびきり最高級のものを求め、それを手に入れるために高額な費用を支払うことを厭わないユーザー向けだ。高性能なSurface Pro、Surface Book、Appleの「MacBook Pro」または「iPad Pro」の購入を検討されている場合は、VAIO Zフリップモデルも購入候補に加えてみてはいかがだろうか。

●長所

・しっかりした構造と独特なデザイン
・高性能でバッテリーの持続時間が長い
・魅力的なディスプレイ
・スタイラスペンのパフォーマンスが高い

●短所

・ペンを取り付ける場所がない
・完成度がいまひとつのキーボードとタッチパッド