ミュンヘン乱射 「独も安全でなくなった」 治安に突き付けられた課題

 【ベルリン=宮下日出男】ドイツ南部ミュンヘンで起きた銃乱射事件を受け、国内では大きな衝撃が広がった。動機など背景は不明だが、隣国のフランスやベルギーなどでテロが相次ぐ中、ドイツでも国民の不安が高まるのは必至だ。凄惨(せいさん)な事件が起きたことで、治安確保の限界も浮き彫りになった。

 「おれはドイツ人だ!」。乱射現場の商業施設に隣接する駐車場の屋上で、容疑者とみられる男が、叫びながら拳銃を何度も撃つ姿を目撃者がビデオに収めていた。

 男はイランとドイツの二重国籍を持つ18歳。「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだとの情報もあるが、警察は政治・宗教的理由のテロとの見方を否定した。

 ただ、ドイツ国内の動揺は激しい。パリやブリュッセルなど隣国の首都で同時多発テロなどが相次ぐ中、ドイツは大規模テロの被害を免れてきた。仏南部ニースで起きたトラック突入テロの記憶も生々しい。

 「何が起きたかは関係ない。ドイツももはや安全な島でなくなった」。ある地方紙はこう伝えた。

 ドイツも決して“安全地帯”だったわけではない。昨年の大みそかにはミュンヘンでテロ計画が浮上し、中央駅を封鎖。最近も5月にミュンヘン東方の街の駅で男が刃物で4人を死傷させ、18日には南部でアフガニスタン人の少年が列車の乗客ら5人を負傷させた。

 いずれもイスラム過激派との実際の関係は不明だが、ドイツが次の標的だと指摘される中、国内の緊張は高まっていた。

 政府はこれまで連邦警察に新たな対テロ部門を設置するなどして、治安強化を図ってきた。だが、デメジエール内相は最近、「襲撃をいつも阻止できる保証はない」と治安対策の限界を訴えた上、警官の増員や監視カメラの増設の必要性を強調していた。

 ドイツではイスラム原理主義者が約9千人に上り、大量流入した難民や移民が過激化する事態が懸案でもある。その防止のため、政府は移民らを社会に溶け込ませる「統合」政策を推進。警察当局者は23日、銃を乱射した男は「難民とは関係ない」と強調した。

 ただ、移民らをめぐる「寛容政策」で世論が割れる中、国民が移民らに対する不安を高める懸念は拭えず、メルケル首相にとって国内の治安確保は大きな課題となりそうだ。